TFI Newsletter In Focus   イン・フォーカス   2013年11月号

カイからお便り

フォーカシング・コミュニティの皆様

 今月はもっと長いお便りが書けなくて、ごめんなさい。時間がありませんでした。

 アレクシス・フィリップスとショーン・フィリップスは二人ともフォーカシング指向療法と複雑性トラウマ(FOTCT)を専門とするフォーカシング・トレーナーで、「同一性の回復、トラウマ後の成長および文化的繋がり」という素晴らしい論文を寄稿してくれました。私が特によいと思うのは、彼らがトラウマを持っている人とワークする時に、その人をすでに欠けたところのない全体として見る、その他と非常に異なる方法です。また、彼らの、文化的コミュニティ的文脈のうちに人を見る方法にも心を動かされます。すべてのトラウマ・ワークがそれをするわけではありません。

 今月号には素敵な座談も載っています。それは、サージ・プレンゲルがホストを務めた、ベアトリス・ブレイクとの対話です。すでに多くの方が、彼女の見事な仕事に気づいていらっしゃることでしょう。それは、フォーカシングと非暴力コミュニケーションを組み合わせたもので、エルサルバドルで戦争の余波をいやす助けとなりました。彼女と彼女がエルサルバドルで訓練したチームは、フォーカシングと非暴力コミュニケーションを村々に持ちこむに際にも、より都会的な状況に提供する時にも、いやしに関するコミュニティ的な次元に非常に敏感です。

 今号をお楽しみいただけることよう願っています。2014年1月にまたお会いいたします。

敬意をこめて、そして、よい休日を!

カイ

―カイ・ネルソン、フォーカシング研究所 共同ディレクター

この号の目次


*序文 カイ・ネルソン
*「同一性の回復、トラウマ後の成長および文化的繋がり」アレクシス・フィリップスとショーン・フィリップス
*「ベアトリス・ブレイクとの対話」サージ・プレンゲル
*ジーンに祝福を伝える一ヶ月
*今後のイベント
*新しい情報
*リストにご参加ください
*普遍的なフェルトセンス・リテラシー(読み書き能力)を支援しましょう


同一性の回復、トラウマ後の成長および文化的繋がり

アレクシス・フィリップス、ショーン・フィリップス

2012年9月1日

「FOTCTは、クライアントを壊れていると見なすことからのパラダイム・シフトを提案する。そのかわりに、クライアントは適応性があり、創造性と勇気をもって逆境に応じていると、見なされるのである。」

フォーカシング指向療法と複雑性トラウマ(FOTCT)は、過去と現在、すべての形態のトラウマと取り組むための専門的な技能を教える訓練モデルである。FOTCTでは、複雑性トラウマを、繰り返し累積的に、通常ある期間にわたり特定の関係や文脈の内で起きるトラウマとする。トラウマは、時にはより早期の発達段階で「行き詰まり」を起こし、今日において機能することを妨げる。FOTCTは、クライアントに何が起きたかというストーリーに関心をおくことよりも、むしろクライアントがどこで行き詰まっているかに注意を払う。この行き詰まりのプロセスに焦点を当てることができる力は、傷の内容によって誤った方向に導かれることなく、クライアントがより効率的に、より完全にいやされることを可能にする。本質的に、このプロセスは、クライアントがフェルトセンシングを通して彼らの中核的自己に近づくことを可能にする。FOTCTで学んだ技能はトラウマを抱えたからだの解放を促進し、その人の生活が、癒しと、より一層健康的な感覚とともに前に進むことを助ける。

クライアントが複雑性トラウマを体験する時、しばしば彼らは生き残るために断片化する。これらの阻止されたプロセスは、認められようとしながらからだに残る。それらは、侵入的な記憶や悪夢、フラッシュバック、破壊的な内なる批判、切傷行為、その他トラウマへの適応反応として表れる。クライアントは、しばしば、これらの反応を自身の失った部分として認識しない。その代わり、クライアントは、そしてしばしば彼らに関わっているセラピストも、それらの反応を修正するか、消そうとするのである(Parker, 2009)。

FOTCTは、強力な観察者的自己を発達させることに重点を置き、クライアントが次のどちらの部分も認められるようにする。その部分とは、面倒をみる部分と、彼らが取り組んでいる歴史の一片を体験したり再訪問したりする部分である。強力な観察者を持つことはそれ自体で癒しを引き起こすし、クライアントが、彼らの同一性の一部として固着することなく、感じていることを認め体験し抜けるようにもする。FOTCTは、クライアントが現在において機能を高めることを目指し、よりよい今日と明日を創ることを務めとしている。しかるが故に、同一性の回復は、重大である。

トラウマの余波の中にいるクライエントを援助するうえでは、彼らが戸惑い孤立を感じてもがいているときに、クライアントが自分自身に戻る方法を見つけ出すことが最も重要である。身体は完了を目指すし、一般的に全体性をとり戻す秘訣を知っている。FOTCTは、クライアントが自己、自分自身の権限、そして内なる知恵への信頼とつながりを取り戻すのを励ましていく。逆境に直面しても生き残り、力強く成長さえする能力は、私たち自身が持つ自然でスピリチュアル(精神性、霊性)なレジリエンス(回復力)をうまく活用することと結びつけられてきた。(Young & Nadeau, 2005)

その人の同一性の感覚に敬意を払うことは、不名誉な烙印を押し、ラベリングする欧米のモデルへの挑戦でもある。それは人を症状に区分してしまう傾向がある。クライアントが複雑性トラウマを切り抜けるに従って、次に証拠として示されるように、多くの人がトラウマを知識や知恵と見始める:「世界が差し出してくれているに違いない素晴らしい物事すべてを私が糧にすればするほど、起きたことを、私が誰であるかとしてではなく、単に私の1つの体験として顧みることができる。」(Phillips & Daniluk, 2004, p.180);「私は、もう二度と私の人生の1日を交換しようとは思わない。なぜなら、性的虐待を含む私の歴史が、自分の人生にすっかり活気を与え、驚くような冒険にしてくれたと思うから。」(Phillips, 2001, p.124).

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、他のトラウマの専門用語と同じように、苦しみを医療の病理学的な疾患に帰してしまう。医療モデルは、トラウマ反応を区切り不名誉な烙印を押し、その行動を病理学的疾患の症状に変えてしまう。FOTCTは、クライアントを壊れていると見なすことからのパラダイム・シフトを提案する。そのかわりに、クライアントは適応性があり、創造性と勇気をもって逆境に応じていると、見なされるのである。このレンズを通してみると、複雑性トラウマ反応は、より深遠な、聖なる、(人生を)転換させるような教えとなる。それらはまた、世代を超えた先祖の知恵とも見られている(S. Turcotte, personal communication, June 22, 2012)。

FOTCTでは、力の格差や性的、社会的、政治的、組織的、人種的衝突の影響力と、これらがトラウマの回復にどう影響するかを認識している。個人に焦点をあてるのが治療の主流を占めるなか、FOTCTは、クライエントを取り巻く家族やコミュニティ全体に対する認識をもたらす。FOTCTのなかで、度重なる侵害によって断片化した頭—身体—心(mind-body-spirit)の修復を始めることによって、自己、土地、コミュニティとのつながりを回復し、相互に繫がる感覚を取り戻すことができるのだ(Young and Deneau, 1995)。

著者たちは、彼ら自身が個人的にこのプロセスとの深いつながりをもっている。身体的及び性的虐待の子供時代の歴史を分かち合う兄妹として、彼らは、FOTCTのプロセスがなかったら現在のように健康ではいられなかっただろうと強く感じている。1987年、19歳の時にショーンは初めてフォーカシング指向セラピストに出会った。後に彼は、アレクシスにFOTCTのセラピストを紹介した。

この記事の続きは、TFIのウェブサイトでお読みください。

(TFIからの英文のニュースレターはここで終わりますが、日本語訳はこのまま続けます。)

アレクシスにとっては、トラウマの後遺症が、彼女を身体や体験、感情と切り離したままにした。彼女は、自分がどこか根本的におかしいというような、空虚さを感じた。彼女は、自分自身と、そして、彼女の周りの人々と切り離されている感覚を覚えた。トラウマに起因する断絶と裏切りから生き残るために、アレクシスは断片化した同一性を発達させた。虐待は、否認や思考の自発的な抑圧、解離を用いて、意識的な自覚や記憶から切り離されていた。20代初めに彼女の埋もれていたトラウマが誘発され、アレクシスはPTSDを発症した。FOTCTのプロセスは、彼女が自分自身に戻る方法を見つけるのを助け、彼女は断片化を修復し、統合された同一性を発達させることができた。彼女は自分自身や自分の体験の断片化した側面を集めていくにしたがって、自分自身や周囲の人々と関係できるようになった。

ショーンにとっては、それは違った体験だった。彼は10代後半から20代はじめにかけて演劇学校に通い、俳優としての仕事の準備として、身体や声と関係を築こうとしていた。身体や呼吸と繋がるにつれて、FOTCTは、彼がフラッシュバックや解離し断片化した自身の側面に対しより友好的になり好奇心をもつことに役立った。しかし彼は、スピリチュアリティに対する強い幻滅感をもち続け、感情とは切り離されていた。彼は「Mother Earth's Spiritual Camp」にたどり着いた。そこは先住民の長老デイブ・コーシーンによって率いられたメディスン・ホイールの全ての方向性 から若者を癒す場所だった。彼は同時に中央アフリカにあるマラゥイという僻村でも時間を過ごした。ショーンにとっては、演劇学校、FOTCT、コミュニティにいることの組合せだった。特に、痛みやトラウマと共に生き治癒しつつある人たちと共に暮らすコミュニティにいたことが彼の治癒を増進させた。ショーンの断片化した部分は統合し始め、彼はスピリチュアリティとの繋がりに再び飛び込んでいった。

おそらく、この2人の兄妹に起きたことのなかで、とてもユニークで特別だったことは、彼らが今チームとなってFOTCTを教えることができることだろう。彼らの個人的な物語を分かち合うことは、FOTCTのプロセスを教え、断片化のさらなる修復をもたらす方法であり、時に複雑性トラウマの遺産の一部にもなり得る。それはまた癒しや繫がりへの関与を更に深める方法でもある。FOTCTのプロセスは、度重なる暴行や長期間にわたるトラウマの結果としてしばしば起きる、スピリチュアリティの断絶を癒すことを可能にした。ショーンとアレクシスにとって、フォーカシングは、世界での在り方、自分自身とスピリット(精神、霊)とコミュニティとつながる在り方なのだ。

人生に対処し建て直していくなかで、幾人かは新しい水準の意義、新しい価値ある目標を表現する変化した人生哲学、精錬した自己の感覚、そして、世界との変化した関係にたどり着く。Tadeschi and Calhoun (1995)はこのシフトに言及し、外傷後の成長と意義づけている。

私は、私の全ての体験があったから私という人間であって、おそらく諦めないだろうことが私には沢山ある。だから、これらのことは私に起こるべきではなかったと考えることに意味はない。これらのことが起こらなかったら私が今どんなふうかなんて、私にはわからないからだ。 (Phillips, 2001, p.124)

FOTCTは、文化的、民族的、そしてスピリチュアルな気づきを包括している。FOTCTは、文化的な祖先や経験にかかわらず私たちは同じだという一般的な仮定を越えたところまで及ぶ。FOTCTは、歴史や個々人の体験それぞれの多様性と繋がる。文化が要請する相互に繫がっている状態が、クライアントが彼らの文化的な文脈の一部として認められることを可能にする(Poonwassie, 2009)。

フォーカシング指向療法は、伝統的な文化が要請する不干渉を認めているので、植民地化するわけではないし、癒えるプロセスをその人達自身がコントロールすることを許している。クライアントは、自己のすべての側面を含んだ、個人的、共同体的同一性を鍛え、不名誉な烙印を押された自己感を拒絶することを選んでいい。そのようにして、変化のプロセスは、個人を越え共同体的全体へと広がっていくかもしれない。個人として、私たちは全員、関係や社会的文化的文脈の一部である。そのため、個人の変化は社会の変化になり得る。個人の変化が家族やコミュニティの変化を育てられるので。

1 (訳注) メディスン・ホイールとは,アメリカ先住民族の「生命の輪」といわれるもので、神聖な儀式を執り行う場所を形作ったもののようです。
http://www.nlm.nih.gov/nativevoices/exhibition/healing-ways/medicine-ways/medicine-wheel.html

References

Parker, R. (2009, Fall). Complex trauma. The Focusing Institute, 9, 1-8.

Phillips, A. (2001). Beyond survival: The experience of identity in the later stages of recovery from incest. Unpublished master's thesis, University of British Columbia, Vancouver, Canada.

Phillips, A., & Daniluk, J. (2004). Beyond "survivor"; How childhood sexual abuse informs the identity of adult women at the end of the therapeutic process. Journal of Counseling and Development, 82(2), 177- 184.

Poonwassie, A. (2009). From focusing-oriented therapy to community change. The Focusing Institute, 9, 1-8.

Tedeschi, R. G., & Dalhoun, L. G. (1995). Trauma and transformation: Growing in the aftermath of suffering. Thousand Oaks, CA: Sage.

Young, A.E., & Nadeau, D. (2005). Decolonizing the body: Restoring sacred vitality. Atlantis: A Women's Studies Journal, 29(2), 1-13.

アレクシス・フィリップスとショーン・フィリップスのきょうだいチームは、25年以上に渡って、フォーカシング指向心理療法(FOT)を用いてきた。彼らはどちらも幼少期の性的虐待からのスライバー(訳注:生き延びて成長した人)である。この比類なき活動的なチームは、FOTと複雑性トラウマに携わる専門的な訓練を受けてきた。彼らきょうだいチームは、セラピストとヘルスケアの専門家への継続研修をカナダ、アメリカ合衆国、イスラエル、ブラジル、南アフリカで、実施中である。

注:著者達の詳しい経歴、FOTCTの論文や事例研究を、fotcomplextrauma.com をご覧ください。

(堀尾直美・小坂淑子訳)

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